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ヘッジファンドと国際金融市場

ヘッジファンドと国際金融市場
范 宇晟弁護士 Harneys法律事務所

大井幸子について

1988年 明治生命保険会社 国際投資部 係長 米国とのM&A業務に携わる
1989年 ムーディーズ社(ニューヨーク本社) ストラクチャード・ファイナンス部アナリスト
1991年 リーマンブラザーズ(ニューヨーク本社) 債券リサーチ部バイス・プレジデント
1993年 キダーピーボディ(ニューヨーク本社) 債券営業部バイス・プレジデント
2001年 ニューヨークでSAIL LLC設立 オルタナティブ投資情報コンサルティングに従事
2007年 UBP(ユニオン・バンケール・プリヴェ)インベストメンツ・ジャパン 営業戦略担当取締役
機関投資家向けファンド・オブ・ヘッジファンズ営業
2009年 株式会社SAIL 東京にて業務再開 2013-14年12月末までクロスポイント・アドバイザーズ パートナーを兼任
2015年 SAIL投資助言業務を開始 戦略的ポートフォリオの構築、グローバル・アセット アロケーターとして投資運用の最前線に立つ

  • 1981年 慶応大学法学部政治学科卒業
  • 1987年 慶応大学大学院経済学研究科博士課程満期退学
  • 1985年 米国スミスカレッジ(フルブライト奨学生)
  • 1986年 ジョンズホプキンズ高等国際関係大学院SAIS 88年 修士課程修了
  • 『お金を増やしたいなら、これだけやりなさい!』 フォレスト社 2018年
  • 『円消滅! ~第二の金融敗戦で日本は生き残れない』 ビジネス社 2016年
  • 『この国を縛り続ける金融・戦争・契約の正体』(共著) ビジネス社 2015年
  • 『国富倍増 日本国富ファンド―グローバル金融資本主義の政治経済学』 志學社 2013年
  • 『お金の正しい守り方』 日本経済新聞出版社 2012年
  • 『ヘッジファンドで増やす時代:全天候型投資で儲ける』(共著) 東洋経済新報社 2005年
  • 『ウォール街から日本経済お見通し』 あ・うん 2005年
  • 『ウォール街のマネー・エリートたち:ヘッジファンドを動かす人びと』 日本経済新聞社 2004年
  • 『魂の求める仕事をしよう:ニューヨーク発よいキャリアの築き方』 太陽企画出版 2001年
  • 『アメリカの一人勝ちを許すな:日本に何が欠けているのか』 太陽企画出版 1999年
  • 『ヘッジファンドで拡大する私募金融市場』 ヘッジファンドと国際金融市場 ヘッジファンドと国際金融市場 東洋経済新報社 1999年
  • 1999年12月 「米国企業の事業創造システム」:『創造する経営』上巻 所集
  • 1999年12月 「米国ベンチャー・キャピタルのM&A」:『新世紀戦略財務経営』所集
  • 1999年12月 「オルタナティブ投資とリスク管理」年金情報1999年12月4日号
  • 2000年 2月 「CDO:オルタナティブ投資へのヘッジ手法」年金情報
  • 2000年 2月 「ニューエコノミー論の考察:日米のバブルについて」日経研月報
  • 2000年10月 「最近の米国金融事情」日経研月報
  • 2003年10月 「米国オルタナティブ投資事情:ヘッジファンドに脚光、リスク管理が新基軸」年金情報
  • 2004年 2月 「米国経済の動向と世界経済への影響」日本経済研究センター会報
  • 2005年 2月 「勢力増す年金のヘッジファンド投資:流動性確保が招くリスク増のパラドックス」年金情報
  • ヘッジファンドと国際金融市場
  • 2005年 9月 「ヘッジファンド・ポートフォリオの評価法:フォワード・ルッキングな運用の薦め」年金情報
  • 2006年 9月 「米国運用業界の最新ファイナンス事情:AMF、運用者の独立性維持」年金情報
  • 2007年 1月 「米国におけるCSR:歴史と現状」経済法令研究会
  • 2011年3月 「金融資本主義の行方:グローバル化する直接金融」武蔵野大学政治経済研究所年報3号
  • ヘッジファンドと国際金融市場
  • 2011年10月 「グローバル金融資本主義の政治経済学」武蔵野大学政治経済研究所年報4号
  • 2012年3月 「ヘッジファンドから見た国際金融市場の動向」証券経済学会年報 第47号
  • 2012年12月 「地政学から見た21世紀型国家資本主義:大戦略としての金融資本主義」武蔵野大学政治経済学研究所年報6号
  • 2014年3月〜17年12月末 日刊工業新聞 コラム「国際金融市場を読む」毎週金曜に連載、その他ビジネス誌等への記事、セミナー多数
  • 2017年8月より日本経営合理化協会と「資産保全研究会」を発足(http://www.jmca.jp/prod/2572)、中堅中小企業のオーナー経営者の資産保全を指南
  • 「ヘッジファンド 危機下に投資家たちは今後どう動くのか」 エコノミスト 2008年12月22日号
  • 「商品・サービスのプレミアム化の真髄」ていくおふ(ANA総合研究所)2008年Winter
  • 「レバレッジが抱えるリスク」エコノミスト 2007年10月8日号
  • 「日本のCSR-米国の失敗に学ぶ」IR実務情報誌プラクティス 2007年8月号
  • 「特集・世界のビッグファンドの正体」サピオ 2006年7月26日号
  • 「 NYマンハッタンリポート アディクタム 2006年5月号、8月号
  • 「How to Get Access to the Japanese Pension Market」 ヘッジファンドと国際金融市場 www.HedgeFund.net (2006年1月10日号)ヘッジファンドと国際金融市場
  • 「2006年は疑念の年?」ラジオ深夜便 2006年1月号
  • 「ルポ:米国のインフレ」エコノミスト 2005年12月6日号
  • 「ファミリー・オフィスの極意伝授します」アディクタム 2005年11月号
  • 「米ヘッジファンド 行方は?」 株式新聞 2005年5月26日
  • 「持てる者と持たざる者の二極化 日本はどんな社会を目指すのか」
  • 「世相」 竹村健一氏との対談 2005年3月号
  • 「Land of the Rising Sun Has Woken to Hedge Funds」 Alternative Universe, 2005年2月14日号
  • ヘッジファンドと国際金融市場
  • 「今年の円・ドルレートはこう動く」エコノミスト 2005年1月11日号
  • 「米国のミリオネアーに学ぶ資産運用術」 アディクタム誌 連載 2005年4月号、7月号、2004年12月号
  • 「ヘッジファンド投資の水先案内人」アディクタム 2004年10月号
  • 「下落見越し空売りを仕掛けるヘッジファンド」エコノミスト 2004年9月21日号
  • 「米の超低金利時代終る」フジサンケイ新聞・ビジネスアイ 2004年7月10日
  • 「米金利とグローバルマーケット」2004年5月28日 コラムI’s Eye
  • 「米利上げ、タイミングはいつか」エコノミスト 2004年5月25日号
  • 「米国はデフレからインフレへの戦いへ」エコノミスト 2004年2月10日号

講演・セミナー

通産省アジア・クラブ、ニュービジネス協議会、中小企業フォーラム、通産省産業研究所、香川県中小企業同友会、日本政策投資銀行、日本格付け研究所 (R&I)、信金中央金庫、慶応義塾大学経済学部野村財団講座、ニューヨーク大学スターン・ビジネススクール、インテック金融ITセミナー、日本 経済新聞「丸の内キャリア塾」ニューヨーク・セミナー、日本経済研究センター、綜合ユニコム「不動産マネジメントフォーラム2005」、交詢社、船井財産 コンサルタンツ、モルガン・スタンレー アセット・マネジメント投信会社、日興コーディアル証券、米国プリンストン大学東アジア研究センター、外為ドットコム、年金東京地方協議会京橋部会 など多数

ケイマン・スキームを利用した日米の投資家向けヘッジ・ファンド組成の指南

范 宇晟弁護士 Harneys法律事務所

  1. はじめに
  2. ゴールデン・スタンダードたるケイマン籍ファンド
    1. 租税中立性
    2. コモンローをベースによりビジネス・フレンドリーに発展
      ヘッジファンドと国際金融市場
    1. ケイマンにて利用可能な投資ビークルの種類
    2. 免除会社およびユニット・トラスト
    3. 日米の投資家へ同時に訴求するマスター・フィーダーストラクチャー
    1. 4条3項ファンドの登録要件
    2. 継続要件
    1. 反マネーロンダリング法(Anti-Money Laundering: AML)
    2. 金融口座に関する自動的情報交換(Automatic Exchange of Information: AEOI)
    3. 実質的所有者法
    4. ケイマン・データ保護法
    5. 証券投資事業法
    6. 経済実体法
    1. 投資ビークルの初期設立
    2. 関連書類のドラフトおよび交渉
    3. 4条3項ファンド登録および上記各ケイマン法の対応
    4. ローンチ/クロージング
    1. 税務アドバイザー
    2. 各法カウンセル
    3. ファンド・アドミニストレーター
    4. プライム・ブローカー/カストディアン
    5. 監査人

    東京都は国際金融センター東京の実現に向けてさまざまなプロジェクトを推進しており、将来の東京市場の活性化に寄与する資産運用業者を増やすことを目的とし、独立系の資産運用業者の開業を支援している 1 。
    ファンドの準拠法としては、圧倒的にケイマン籍が多く、新興のファンド・マネージャーにとってもケイマン・スキームを使うことが第一の選択肢としてあげられる。
    そこで、本稿では、大手オフショア系法律事務所のパートナー弁護士である筆者が、ケイマン・スキームを利用した日米投資家向けのヘッジ・ファンド組成について概説する 2 。

    ゴールデン・スタンダードたるケイマン籍ファンド

    租税中立性

    コモンローをベースによりビジネス・フレンドリーに発展

    (1)より柔軟なストラテジーの選択が可能

    (2)スピード感

    投資ビークルの設立自体は1−2営業日で可能である。規制当局であるケイマン金融庁(Cayman Islands ヘッジファンドと国際金融市場 Monetary Authority、以下「CIMA」という。)へのファンドの登録も数週間で完了する。

    (3)先端的な規制フレームワーク

    ケイマンは早期に強固なKYC(Know Your Client)、AML(Anti-Money ヘッジファンドと国際金融市場 Laundering)の立法・施行を行い、グローバルで採択されているFATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)、CRS(Common Reporting Standard)にも参加し、OECDやEUの要請にも協調的であり、可能な限りOECD/EUスタンダードの法体制に合わせようとしている。
    これにより、(特に機関)投資家は自身のステークホルダーに対してケイマンを利用することを正当化しやすい。

    (4)「ケイマン」というブランド

    (5)適切な紛争処理機関および高度人材のプールが豊富

    紛争は、非常に経験豊富かつ洗練された裁判官(多くは英国本国にて高等法院以上の裁判所判事を経験)により審理され、本国ロンドンの枢密院が終審裁判所となり、本国と同水準レベルで紛争処理がなされることを期待できる。
    著名なケイマン法を取り扱う法律事務所は、主に香港・シンガポールオフィスを通じて、アジア・タイムゾーンのクライアントにタイムリーにサービスを提供している。所属弁護士は、多くが英国マジックサークル等の一流ファームからリクルートされたコモンウェルス圏 4 の有資格者であり、英語のみならず流ちょうなアジア言語にて対応可能な者も多い 5 。 ヘッジファンドと国際金融市場
    主要な会計事務所はケイマンオフィスを持ち、アジア主要都市のオフィスと協力して税務、監査等のサービスを提供している。

    投資ビークルおよび基本的なストラクチャー

    ケイマンにて利用可能な投資ビークルの種類

    • 免除会社(Exempted Company)
    • 免除リミテッド・パートナーシップ(Exempted Limited Partnership: ELP)
    • 分離ポートフォリオ会社(Segregated Portfolio Company: SPC)
    • LLC(Limited Liability ヘッジファンドと国際金融市場 Company)
    • ユニット・トラスト(Unit Trust)

    世界的な潮流としては、オープンエンド型のヘッジ・ファンドについては、免除会社が主要な投資ビークルとして選択される 7 。他方で、日本では後述の理由からユニット・トラストが最も人気を博している 8 。
    そこで、本稿では、免除会社およびユニット・トラストについて解説する。

    免除会社およびユニット・トラスト

    (1)免除会社

    ケイマン会社法は英国会社法を基礎とし、その性質は世界各国で設立されるいわゆる “(株式)会社” に類似しているが、さまざまな面で他法域の会社に比して柔軟な制度設計が認められる。
    免除会社のステータスを有する会社については、取締役をケイマン居住者に限定する、年次取締役会/株主総会をケイマン領域内で開催しなければならないといったローカル要件はなく、ファンド・マネージャーが自身の居住地から操作することが容易である。
    投資ビークルたる免除会社は議決権を有するマネジメント株式(Management Share)とこれを有さない参加株式(Participating Share)を発行し、投資家は参加型株式を取得することになる 9 。

    (2)ユニット・トラスト

    ユニット・トラストは、1925年英国信託法を実質的に基礎とするケイマン信託法 10 に基づく。そのコンセプトは、投資家が、信託証書(Trust Deed)に基づき、ユニット・ホルダー(Unitholder)としてその資金を信託の形態で受託者(Trustee)に出資してプールし、その対価として出資額に応じたユニットが発行され、利益分配 11 に預かるものである。
    ユニット・トラストが特に日本のファンド・マネージャーおよび投資家に好まれるのは、歴史的に用いられてきた、日本の投資信託との類似性がある、会計上や税務上のメリットがある、といった理由があげられる。
    いわゆるアンブレラ型ユニット・トラストが一般的であり、これは各サブ・トラストに共通する部分をくくりだした信託証書の「ひな形」としてマスター・トラストを作成し、これを各サブ・トラスト設立の際に貼り付けることでドラフティングの手間・時間を省略できるものである 12 。

    日米の投資家へ同時に訴求するマスター・フィーダーストラクチャー

    日本の投資家をターゲットとする場合、投資家資金を吸収する投資ビークルはユニット・トラストを用いるのが第一選択肢となろう。他方で、ユニット・トラストは米国をはじめ他国の投資家に対しては決して一般的であるとはいえず、米国投資家への訴求には向かない。また、米国投資家については、米国税務および規制法上の要請から、一般的には米国エンティティへ直接投資する必要が生じ、多くの場合はデラウェア州準拠のLLCやリミテッド・パートナーシップが投資ビークルとして選択される 13 。これに対し、日本の投資家は、不必要に米国税務、法務または規制の問題に引き込まれないよう、米国投資家と同一の投資ビークルへ投資することは控えたい。
    そこで、日米の投資家へ同時に訴求するためには、いわゆるマスター・フィーダーストラクチャーを選択することが多い(以下のストラクチャー図を参照されたい)。

    スタンド・アローン(日本投資家向け)

    Standalone(Japanese Investors)


    マスター・フィーダー (日米投資家向け)

    Master-Feeder(Japanese and US Investors)

    フィーダー・ファンドとは、メインに投資を行うファンド(マスター・ファンド)に投資することを唯一の目的として作られたファンドであり、日本および米国の両フィーダー・ファンドに集められた投資家資金をまとめてマスター・ファンドに集め、投資対象への投資はマスター・ファンドから一括して行うことになる 14 。
    また、一般的 15 には投資マネージャー 16 17 を選任し、投資ビークルの取締役会はその投資意思権限を投資マネージャーに委任する 18 。

    ミューチュアル・ファンド法

    オープンエンド型ファンド、すなわち、投資家が任意に償還可能なファンドは原則としてミューチュアル・ファンド法の規制に服する。同法において、ミューチュアル・ファンドは、「会社、ユニット・トラスト、パートナーシップで[投資家の意思で償還可能な:筆者注]エクイティ持分 19 を発行し、その目的・効果は投資リスクを分散すべく投資家資金をプール 20 し、投資家をして投資対象の取得、保持、運用または処分により利益を得せしめるもの」 21 ヘッジファンドと国際金融市場 と規定されている 22 。
    圧倒的多数のヘッジ・ファンドはミューチュアル・ファンド法4条3項に基づく登録(「4条3項ファンド」)であり、本稿の解説ではこれに限定する。

    欧州危機の根源③世界経済金融化の行き着いたところ

    【前回のおさらい】前回は「通貨ユーロの誕生」というテーマで、ソ連崩壊(1991 年) 後のアメリカ主導の金融グローバリズムの進展と、欧州石炭鉄鋼共同体から始まる長い道のりを経ての欧州連合の発足(マーストリヒト条約1993 年)、それから決済通貨としてのユーロ誕生(1999 ヘッジファンドと国際金融市場 年1 月) などをお話ししました。
    今回は「世界経済金融化の行き着いたところ」というタイトルで、グローバリズム元年(1992 年)以降の主要な国際金融面での出来事と、それがもたらしたと思われる社会、経済面での問題といったアングルでお話ししようと思います。

    1992 年以降の国際金融の流れ~連続する通貨危機~

    当時はまだユーロという単一通貨は存在せず、EMS(European Monetary System)の時代でした。EMSに加盟した国はECU(European Currency Unit)に対し、自国通貨を上下ある一定の範囲以内に収めねばならないという、いわば固定相場制の下にあったため、サッチャーさんは頑としてこのEMSへの加入を拒否していました。しかし英国はとうとう1990 年10 月にEMSに参加することとし、ポンドの変動幅を基準相場から上下2.25%以内に抑える義務を背負うこととなりました。

    サッチャーさんが退任した1990 年に東西ドイツが統一されますが、これはドイツにとって相当難しいものでした。単純に言ってしまえば国家による多額の財政支出が必要で、その結果インフレプレッシャーがかかり、1992 年にはドイツ中央銀行が金融を大幅に引き締めざるを得ない状況にいたりました。同年7 月に政策金利を8.0%から8.75%へと一気に3段階引き上げを決めました。これをきっかけにドイツマルクが急騰し、まずは英国ポンドがいきなり狙われ売り注文を浴び、ポンドがどんどん下落を始めました。いわゆる「1992年のポンド危機」です。これを仕掛けたのは、83歳となる今もなお健在で有名なジョージ・ソロスさんです。これに対抗して英国中銀は必死にポンドを買い支え、更に金利の大幅引き上げなどを行いましたが、とうとう9月17日にポンドの買い支えを断念し、EMSから離脱しました。いわば英国は一敗地に塗れたという結末で、この日を「ブラック・ウェンズデー」と呼んでいます。その頃から「ヘッジ・ファンド」とか「プライベート・イクイティ・ファンド」と呼ばれる非公開の投資ファンドがどんどん活躍するようになるのです。ソロスさんのファンドもヘッジ・ファンドと呼ばれていたと思います。

    1997 年にはアジア通貨危機が勃発、タイから始まりインドネシア、マレーシア、シンガポール、韓国と軒並み狙われ、それぞれの通貨は大幅な下落を余儀なくさせられました。大雑把に言って瞬間的には通貨価値が一気に1/3 になった(インドネシアは実に1/8)という激震です。月平均ベースでは右のグラフの様に急激な貨幣価値下落が見てとれます。売り浴びせた方は濡れ手に粟の大儲けでした。マレーシアだけは為替管理を堅持し、何とか切り抜けましたが…。その後、対米ドルでは比較的早期に現在の水準まで戻していますが、危機以前より大幅に減価されています。危機以前、対米ドルで固定(高めに)していた各国の通貨政策に誤りがあったことは間違いありません。

    このアジア通貨危機が発端で翌年1998年のロシア危機、ブラジルなどラテンアメリカ諸国の金融危機へと繋がる訳です。
    ことにロシア危機のあおりを受けて、アメリカの「ロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)」というヘッジ・ファンドが倒産の危機に直面します。LTCM はノーベル賞受賞のロバート・マートンやマイロン・ショールズなどが関与していたファンドで、当初年率50%だのというような収益を誇る、いわばサラブレッドファンドでした。要するに想定していたリスクイベントを超えた状況が長期にわたったため、沈没したということです。

    LTCM 破綻

    1993 年に設立、翌年より運用開始のファンド。設立当初より役員にはそうそうたるメンバーが名を連ね、その中には元FRB副議長も入っていた。設立当初は1000億円相当のファンド規模が1997 年には7000億円相当に拡大した。破綻の直接的原因はロシアが1998年8月に短期国債の債務不履行を宣言したことにある。LTCMの当時のバランスシートには資本勘定約50億ドル、負債約1250億ドル(100円換算で各々5000億円、12.5兆円に相当、いわゆるレバレッジは25倍)という規模であった。更にデリバティブ取引を加えるといわゆるノーショナル元本は120兆円に達するものであった。<上記の数字はPhilippe Jorion による”RiskManagement Lessons from LTCM, 2000”によるものである>

    銀行業・証券業分離原則廃止の動き=アメリカ

    アメリカは1929 年から始まる世界大恐慌の反省として、銀行業務と証券業務を分ける「グラス・スティーガル法」(1933年)という法律を導入しました。以降長らく、銀行・証券業の一体的運営を禁止・制限していた(銀行・証券間の垣根といっていた)のですが、1999 年に「グラム・リーチ・ブライリー法」を成立させ、実体的に銀証一体化を可能にしました。このように制度的柔軟化を進めながら、金融界は金融デリバティブの、なお一層の深化と広範な取り扱いを成し遂げることになるのです。結果としてMBS やCDS、CDO 等が大いに幅を利かせるようになりました(それぞれMortgage Backed Securities, Credit Default Swap,Collateralized Debt Obligation の略)。

    この間日本はというと、1986年からのバブルが91年に弾け、暗い1990年代に突入するのです。96、97年あたりには回復の兆しが見えてきて、97年に橋本総理大臣のもと消費税の増税までしてしまうのですが、折悪しくアジア危機、ロシア危機と世界全体が大やられで、また沈没するのです。アメリカでは2000年頃にITバブルがはじけ、ピンチになったわけですが、アラン・グリーンスパンFRB議長(在任1987年~ 2006年)が2001 年以降、低金利政策を続け、住宅投資を慫しょうよう慂する政策を強力に推進しました。この政策がアメリカ景気を底支えして、彼はマエストロと絶賛されたりするものの、これはやり過ぎで、とうとうサブプライム問題に行き着き、2008 年のリーマンショックへと発展していきます。

    では、皆様のご意見を伺いたい点です: 金融部門は中央銀行から始まり、銀行、証券、保険、生命・損害保険、信販会社、信用組合、農林・漁業関連連合組合、投資顧問、資産運用会社、ヘッジ・ファンドも含めた各種投資組合、政府系金融機関などなど多岐にわたります。
    その中で、今次欧州危機シリーズで取り上げているテーマに係わってくる「大きすぎてつぶせない」(と思われる)巨大金融機関は世界で数えるほどです。これらの金融コングロマリットに加え、ジョージ・ソロスさんの率いているような巨大投資(投機)ファンドプレーヤー・各種大小ヘッジ・ファンドなどの跋ばっ扈こ によって、ある特定のマーケットが狙い撃ちされ急激に市場価格が変化(通常は下落)し、特定の限られた投資家、投資銀行、そのディラー達などが受益者となるという構図が、ソ連邦崩壊後からのグローバリズムの進展、世界経済金融化・国際化の流れと共に加速度的に醸成されてきたと思われます。又、彼らはデリバティブを駆使し実質的にレバレッジを掛けてマーケットに影響を及ぼそうとしてきます。このような認識が次回お話しする“ボルカー・ルール”導入検討の背景だと思います。

    このようなコンテクストで「グローバリズムの潮流」を見ると、今後日本の国運がかかると思われるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)をどのようなアングルで考えたら良いのか私の気持ちが揺らぐこの頃です。最大の懸念は食品関連の規制緩和(遺伝子組み換え、残留農薬、表示義務など)に関するものと、ISD 条項と呼ばれる国家と投資家(企業)間の紛争解決に係わる制度設計の問題です。後者に関してはオーストラリアが依然と反対しております。食品関連では「(株)貧困大国アメリカ」(堤 ヘッジファンドと国際金融市場 未果 著)などをお読み頂けると私の懸念のベースがお分かり頂けるかも知れません。
    ご意見、コメントなどは、[email protected]までお送り下さい。ペンネーム、匿名などでも結構です。

    ◆市島慎二(いちしま しんじ)
    日本興業銀行常務、みずほ証券副社長、アジア開発銀行財務局長、ロイヤルバンクオブスコットランド日本会長など国内外の金融の要職を経て、現在はリッキービジネスソリューション株式会社の取締役を務める。

    超大量多様な経済データの実証分析から金融市場を捉える試み

    大西 立顕

    海外のヘッジファンドでは、資産運用のため、さらなるアルゴリズムトレード等の強化を進めている。より多くの収益機会を獲得するという狙いのもと、 膨大な過去のティックデータだけでなく、損益計算書やニュースフィードも取り込んだシミュレーションや統計分析、パターン分析などから、潜在的 かつ微かな利益機会のシグナルを感知する動きを拡大させている。この背景には、大量の金融データを用いて、何百回何千回もの分析を高速で行い、「何か」の傾向を分析しているようだ。

    どういったデータを分析しているのですか?
    現在は、EBS社の円ドル為替レートのティックデータを使っています。
    EBS社は市場で取引されているデータの95%以上のシェアを持っており、円ドル為替レートのデータであればEBS社のデータを使えば世界中で行われている取引のほとんどを網羅することができます。ユーロドルやユーロ円についても分析していますが、主には円ドルを分析しており、期間は1998年から2010年の13年間分で、0.25秒から1秒の時間解像度です。データ数としては約三千万のティックデータを分析しています。

    現在、研究されている株式市場とは異なる外国為替市場の面白いところは?
    株式市場は9時からはじまり昼休みを挟んで15時までですが、外国為替市場は夜中も取引が行われるので、価格は24時間動いています。土曜日、日曜日はほとんど取引がないので、価格もあまり動かないのですが、平日の5日間は連続して価格が動いている状態なので、常に連続したデータになっており、物理学の対象としては「よういドン」でスタートして、止まるようなところがあると、どうしても非定常性が強くなってしまうので、株式市場は非常に分析しにくい事情があります。しかし、為替は非常に連続性がありますので、分析がある程度しやすくなります。

    金融データでどのような研究をされていますか?

    1. 価格変動の相関の非定常性
    連検定という符号列の時系列相関を使用し、価格の上がり下がりの相関の強さをZ値として計算しました。Z値が0の場合は「ランダム」、プラスの場合は「連続」、マイナスの場合は「交互」に出現しやすい傾向を示します。週ごとに計算した結果を縦軸Z値、横軸を週次の時刻として2000年から2010年までについて、5ティックごと、20ティックごと、1500ティックごとと、いくつかのティックの間隔をとって変動をみたときに価格が上がったか下がったかを調べていきます。

    2. 通貨間や銘柄間の相関
    複数時系列の連動性について、たとえばオーストラリアドルとニュージーランドドルの価格変動を比較してみると、とても連動している時期があります。また、オーストラリアドルと米ドルを比較してみると、逆方向に動いてみえるときもあります。このように、価格時系列は同じ方向や逆方向に連動して動くことがあるので、そういったものを調べています。こういった相関の強さというものは、統計学の手法を用いて相関係数で計算することができます。

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    通貨間の相関を表すネットワーク
    ※黒線が最小木を表わす。線の太さは相関の強さを表わし、強いほど太く、弱いほど細い。

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    銘柄間の相関を表わす方向つきネットワーク

    超大量多様な経済データの実証分析から金融市場を捉える試み

    大西 立顕

    海外のヘッジファンドでは、資産運用のため、さらなるアルゴリズムトレード等の強化を進めている。より多くの収益機会を獲得するという狙いのもと、 膨大な過去のティックデータだけでなく、損益計算書やニュースフィードも取り込んだシミュレーションや統計分析、パターン分析などから、潜在的 かつ微かな利益機会のシグナルを感知する動きを拡大させている。この背景には、大量の金融データを用いて、何百回何千回もの分析を高速で行い、「何か」の傾向を分析しているようだ。

    どういったデータを分析しているのですか?
    現在は、EBS社の円ドル為替レートのティックデータを使っています。
    EBS社は市場で取引されているデータの95%以上のシェアを持っており、円ドル為替レートのデータであればEBS社のデータを使えば世界中で行われている取引のほとんどを網羅することができます。ユーロドルやユーロ円についても分析していますが、主には円ドルを分析しており、期間は1998年から2010年の13年間分で、0.25秒から1秒の時間解像度です。データ数としては約三千万のティックデータを分析しています。

    現在、研究されている株式市場とは異なる外国為替市場の面白いところは?
    株式市場は9時からはじまり昼休みを挟んで15時までですが、外国為替市場は夜中も取引が行われるので、価格は24時間動いています。土曜日、日曜日はほとんど取引がないので、価格もあまり動かないのですが、平日の5日間は連続して価格が動いている状態なので、常に連続したデータになっており、物理学の対象としては「よういドン」でスタートして、止まるようなところがあると、どうしても非定常性が強くなってしまうので、株式市場は非常に分析しにくい事情があります。しかし、為替は非常に連続性がありますので、分析がある程度しやすくなります。

    金融データでどのような研究をされていますか?

    1. 価格変動の相関の非定常性
    連検定という符号列の時系列相関を使用し、価格の上がり下がりの相関の強さをZ値として計算しました。Z値が0の場合は「ランダム」、プラスの場合は「連続」、マイナスの場合は「交互」に出現しやすい傾向を示します。週ごとに計算した結果を縦軸Z値、横軸を週次の時刻として2000年から2010年までについて、5ティックごと、20ティックごと、1500ティックごとと、いくつかのティックの間隔をとって変動をみたときに価格が上がったか下がったかを調べていきます。

    2. 通貨間や銘柄間の相関 ヘッジファンドと国際金融市場
    複数時系列の連動性について、たとえばオーストラリアドルとニュージーランドドルの価格変動を比較してみると、とても連動している時期があります。また、オーストラリアドルと米ドルを比較してみると、逆方向に動いてみえるときもあります。このように、価格時系列は同じ方向や逆方向に連動して動くことがあるので、そういったものを調べています。こういった相関の強さというものは、統計学の手法を用いて相関係数で計算することができます。

    120508_oonishi_image1.jpg


    通貨間の相関を表すネットワーク
    ※黒線が最小木を表わす。線の太さは相関の強さを表わし、強いほど太く、弱いほど細い。

    120508_oonishi_image2.jpg



    銘柄間の相関を表わす方向つきネットワーク

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